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完全自動運転AIの開発では、GPUの演算性能だけを見ても十分ではない。クラスタ全体をどう設計するかが問われる。 JSAI2026で開催されたランチョンセミナー「チューリングが目指す完全自動運転の世界と、それを支える計算基盤 “GMO GPUクラウド” の強みとは?」では、この課題が議論された。登壇したのは、チューリング株式会社執行役員 兼 CTO山口祐氏と、GMOインターネット株式会社 システム本部 エグゼクティブリード 大川将史である。会場Dで6月10日に行われた同セッションは、参加券が開場早々に配布終了となり、約130名が会場を訪れる盛況ぶりとなった。

チューリングが目指しているのは、単なる運転支援ではなく、将来的にレベル5を見据えた完全自動運転である。現在は、カメラ入力をもとに車両の予測経路を直接出力するE2E(End-to-End)自動運転に取り組んでいる(※1)

※1 E2E自動運転では、マルチカメラ映像を入力とし、Image Backbone、Planning Decoderを経て、車両の予測経路を直接出力する。従来のモジュール分離型と異なり、中間表現を人が設計する必要がない。
東京の市街地だけでなく、学習データに含まれていない都市でもゼロショットで運転できる状態に近づいている一方、完全自動運転の実現には、物体を認識する精度だけでなく、交通の「文脈」を理解する能力が必要になる。
セッションで山口氏によって例示されたのは、工事現場の近くで誘導員が赤信号でも進行を指示する場面である。人間であれば、信号の色だけでなく、誘導員のジェスチャーや周囲の状況から判断できるが、AIにとっては赤信号を検知するだけでは足りず、その場の意図や状況まで理解しなければ安全な運転行動をとることは難しい。完全自動運転AIの難しさは、認識精度だけでなく状況理解にある。
完全自動運転AIの開発は、単にモデルを大きくすれば解決するものではない。重要になるのは、視覚と言語に加えて行動まで含めて扱うVLA(Vision-Language-Action)の考え方であり、汎用的な視覚・言語モデルの上に運転動画やアクションのデータを重ねることで、実世界の身体性を持つモデルへ近づけていく。

セッションでは、Webの画像・テキストで学習した汎用モデルから、運転動画・VLAデータセットを経てフィジカル基盤モデルへ発展させる流れが示された。自動運転AIは「画像を認識するAI」から「状況を理解し、行動へつなげるAI」へ進む必要があり、そのためには通常の画像・テキスト中心のAI学習とは異なる計算基盤が必要になる。
自動運転AIのワークロードでは、動画データを大量に扱う。都内で収集した膨大な走行データの一部が学習データセットとして整備されている。

ここで問題になるのは、GPUの演算性能だけではなく、ストレージから学習データを十分な速度で読み出せるかどうかである。ストレージI/Oが追いつかなければ、どれだけ高性能なGPUを用意しても待ちが発生する。山口氏はこの点について、「GPUの単体性能だけではなく、 周辺性能が非常に重要」と述べた。ここでいう周辺性能には、ストレージ、ノード間通信、可用性、ジョブ管理などが含まれる。
学習環境と推論環境の違いも、自動運転AI特有の論点である。学習はデータセンターの大規模GPUで回せても、実際の推論は車載SoC上で実行する必要があり、車載環境では温度変化、振動、電磁ノイズといった制約を受けるため、クラウドで学習して終わりではなく、最終的に車載に載せられるかまで含めた設計が求められる。
山口氏が示した課題に対して、大川はGMO GPUクラウドでは、GPU単体の性能だけでなく、ストレージ、高速なノード間通信、可用性、Slurmによるジョブ管理を含めて設計しているという点を返した。つまり、GPUをどれだけ積むかではなく、どれだけ止めずに回せるかという点だ。
チューリング社内では複数の社員が異なるジョブを投入し、空いたGPUに順次割り当てて回す運用を行っている。ジョブスケジューラは試行錯誤のサイクルを止めずに回しつづける運用を支える基盤の一つである。
保守運用についても、大川はGPUの故障や劣化を前提にした設計の重要性を説明した。GPUは高性能である一方、発熱や高負荷による故障・劣化を避けることは難しい。GMO GPUクラウドでは、PrometheusやGrafanaでメトリクスを継続監視し、不良の可能性があるノードを洗い出して予防保守につなげている。障害を完全になくすのではなく、障害が起きても開発を止めないように設計することが、長期ジョブを抱える利用者にとって重要な観点となる。
セッションでは、H200とB300の使い分け、Blackwell世代GPUの可能性も取り上げられた。チューリングではB300を大規模モデル学習向け、H200を車載モデル学習やファインチューニング向けに使い分けていることが紹介された。

山口氏がB300の利点として挙げたのは、HBM容量の増加と1GPUあたり性能の向上である。大規模モデルを学習する場合、メモリ容量や演算性能の差は、扱えるモデルサイズやバッチサイズに直結する。さらに、車載側の最新SoCとのアーキテクチャ上の連続性にも触れられ、学習側での低精度演算を将来の推論環境へつなげる可能性が示された。
ここでの論点は、単なるGPUスペックの比較ではない。学習に使う基盤と、最終的に車載で動かす推論環境をどう接続するかである。完全自動運転AIの開発では、データセンター上の学習性能だけでなく、その成果を実装へつなげる設計も重要になる。
今回のランチョンセミナーでは、完全自動運転AIというテーマを入口に、開発現場で求められる計算基盤の要件が整理された。
比較すべきなのはGPUの型番だけではない。クラスタ全体のアーキテクチャと、それを止めずに回し続けるための運用設計を含めた総合力である。完全自動運転AIに限らず、大規模AI開発の基盤を考えるうえで、GPU単体性能だけでなくシステム全体を見る必要性を示すセッションとなった。
完全自動運転の実現を目指すAIスタートアップ。2030年頃のレベル5自動運転を目標に、E2E / VLAアプローチで研究開発を推進している。
https://tur.ing/
GMOインターネット株式会社が提供するAIワークロード向け高性能GPU計算基盤。NVIDIA推奨構成に準拠したクラスタ設計で、マネージドHPCクラスタとベアメタルの2形態を提供している。
https://gpucloud.gmo/