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【企業インタビューシリーズ】
-チューリング株式会社- 元将棋AI開発者が挑む完全自動運転──大規模分散学習に最適なGPU環境とは

お話を伺った方

チューリング株式会社 代表取締役 山本 一成氏

プロフィール:1985年生まれ。愛知県出身。東京大学での留年をきっかけにプログラミングを勉強し始める。その後10年間コンピュータ将棋プログラムPonanzaを開発、佐藤名人(当時)を倒す。東京大学大学院卒業後、HEROZ株式会社に入社、その後リードエンジニアとして上場まで助力した。海外を含む多数の講演を実施。情熱大陸出演。現在、愛知学院大学特任教授も兼任。

GMOインターネット株式会社
福井 敦子 氏(インタビュアー)
佐藤 嘉昌 氏(システム本部 プロジェクト統括 エグゼクティブリード)
大川 将史 氏 (システム本部 インフラ技術部 仮想化・共用技術チーム)

-まず “今” のチューリングはどのような会社でしょうか。社会的な役割についても教えてください。

山本氏: チューリングが目指しているのは、どんな状況でも車が人間の代わりに運転操作をしてくれる「完全自動運転」の実現です。最終的には“ハンドルのない車”を目指していて、そのためにAI中心の自動運転「E2E(エンド・ツー・エンド)自動運転モデル(※)」や「VLA(Vision-Language-Action)モデル」の開発に取り組んでいます。
また、チューリングは全社目標として2025年12月末までに東京都内の市街地で人間がハンドル・アクセル・ブレーキに一切介入せず30分以上にわたって自動運転の連続走行を目指すプロジェクト「Tokyo30」を掲げていて、11月に達成しました。
世界にはテスラなど強力な競合がいますが、この技術を通じて、自動運転技術の商業化と日本の自動運転開発を本気で前進させたいと考えています。
(※)カメラ画像からハンドルまでの動きをAIが学習しコントロールする技術

-将棋AIの第一人者としてのご経験から、自動運転という新領域を選んだ理由は?

山本氏:最初はタッチタイピングから始めたんですが、将棋AI「Ponanza」の開発は、本当に大変だった。でもその旅は本当に面白くて、 “良い課題”に出会えるとこんなにいいことがあるんだって実感したんです。一方、日本には優秀なエンジニアが本当に挑むべき難題になかなか出会えないことを不満に思っていて。だからこそ、シリコンバレーみたいに、難しい課題にどんどん挑戦していく文化を日本でもつくりたいなと。 “良い課題”って、解くべき難しい課題のことで、課題が解けたらベネフィットがある課題。そしてその難しい課題を解くと、人類を救う、そしてお金を生む。自動運転はこの3つの条件を満たしているからです。 “頭のいい人たちが、めちゃくちゃ難しくて面白い課題に挑戦できる環境”を自分たちでつくればいいんだと思い、組織を創りました。

ー日本のAI産業は海外と比較して遅れている、または先行する海外が進みすぎているという見方もあるかもしれませんが、日本のAI産業に対する見解を教えていただけますか?

山本氏:遅れている。すごく負けている。それを見つめたほうがよいと思っています。メンバーには、安易な差別化をするな、安易に強みを出そうとするなと伝えています。テスラなど、先人をリスペクトして理解して、負けていることを受け止めたうえでどうしたら強くなるかをメンバーにはよく話していますね。トヨタも昔はフォードやGMなど海外の企業から多くのことを学んだと思う。AIもそのくらいの遅れがあると理解して進んでいくのがいいんじゃないですかね。でも課題が大きいことは良いことですね。この原動力は、「次は、テスラを倒す!」くらいがちょうどいいんじゃないかなと思っています。

ー自動運転EVの製造販売から、現在の自動運転AI開発にシフトされた理由は?方針変更のスピードが速かった点についても教えてください。
山本氏:良い自動運転を作るにはソフトからハードまで一貫設計するのが理想的ですが、ただ、ハード量産には相当な企業体力が必要です。悔しいですが、今は“自動運転(ソフト)に集中”するのが最適解と判断しました。
方針転換はプロダクトづくりでは普通のことです。最初から予想通りにすべてうまくいくということはなかなかないことで、難しい話でもありますが、人の想いとか、正しいけど変えられないとか、解決策は本当に難しいんですが、組織の慣性と戦いながら、正しい判断を実行し続けるだけです。方針変更のスピードが速かったと見えたのは光栄ですが、社内では揺れる部分もありました。

「GMO GPUクラウド」をご利用いただいていますが、導入の決め手や評価、リクエストがあれば教えてください。

山本氏:私たちは大規模分散学習が必須ですが、単に高性能GPUを並べればいいわけではなく、GPU間通信・ストレージ性能まで含めて設計する必要があります。その点で、御社は国内では稀なレベルのネットワーク実装や運用の知見がありました。当時 高性能分散ファイルストレージや ジョブスケジュールエンジンをフルマネージドで提供しているところは国内ではほとんどなく、その点が大きな決め手となりました。また、運用とサポートの手厚さは非常に重要で、回線の増強など改善のスピードも早く、助かっています。
私たちはもともと自社でもGPU環境を構築しているのですが、御社の構成は私たちの環境と近い部分が多く、非常に使い勝手がよかったと感じています。大規模なニューラルネットワークを分散環境で作るというのがもともと設計されている仕組みだったというのが大きい。他にないですよね?!

佐藤(GMOインターネット):他社さんで、というと当社に似た構成のサービスも出始めています。真似されるということは光栄ですし、より先行しなくてはという気持ちがあります。

大川(GMOインターネット):チューリングさんには本当にとがったエンジニアさんが多くいらっしゃるので、日頃の運用の中で、細かいパラメータの設定をトライ&エラーで繰り返して、GPUのロスが少ない運用をするための知見を相当にお持ちだと思います。

山本氏:あと、計算機基盤としての性能を他社と比べてみると、運用の安定なども含めて、めっちゃGMOさんを頼りたいと思っています。めっちゃ頼る作戦を社内でも話しています(笑)

完全自動運転が実現した社会はどう変わると思いますか?倫理(いわゆる“トロッコ問題”)への向き合い方についても教えてください。

山本氏:自動運転が実現するということは、エレベーターに乗るのと同じように不安や緊張を感じずに“意識せず乗る”存在になるということでしょうね。車の運転ってとても楽しいものですが、A地点からB地点に移動するには制約もある。起きていないといけないし、緊張していないといけない。これに比べて自動運転が実現すれば移動はもっと楽になりますし、それ自体が文明の前進ですよね。将来的にはカメラからアクチュエータまで全部つながった“フィジカルAI”が大型機械全般に広がると見ています。
倫理の話でいうと、最終的にはVision-Language-Actionモデルになって、LLMのアラインメント問題として倫理パラメータを内蔵せざるを得ないと思っています。乗員と歩行者の命の重みなど、内部でちゃんと倫理調整を行う設計が必要なんですよね。そもそも人間にも解けない問題なんですよね。だからこそ誠実に仕様として落としていくことが大事だと考えています。

ー山本CEOの今の頭の中は、経営思考?それともエンジニア思考?そのバランスについて教えてください。

山本氏:エンジニア思考、ここ1か月くらい特に。経営をしているかといわれると正直わからない(笑)。
AIや技術は特に難易度が高くなっていて、イーロンマスクがすごいのは、AIや技術を理解したうえで正しい判断をして経営ができているという点。AIのことは私のほうがわかっていると思うけど(笑)。今は作っているものがとても難しいし、経営者はそこに対する理解が必要。なので、技術者のままでも良いんじゃないかなと思っています。日本の経営者でそういう出身者は少ない。組織は、(自分に対して)社長として大人になれといってくる。でも俺は負けない!(一同大爆笑)

ー若手エンジニアやAIを志す人へのメッセージを。

山本氏: “変わり続けること”を認め続けるしかないと思います。今のエンジニアは結構大変ですよね。変わり続けないといけないから。 AI技術の変化は激しく、経営判断の中で技術が占める重さは人類史上最大級です。作っているものの進捗が外から見えにくい時代だからこそ、技術をわかるリーダーが正しく判断する力が重要なんですよね。今の若い世代は大変だと思います。でも、その最前線にいること自体が価値あることですよ。

取材を終えて感じたのは、山本CEOが体現する「技術者であり続ける経営者」というスタイルの説得力。完全自動運転という難題に立ち向かう強い意志と、飾らない語り口で人を惹きつける魅力。この二つが自然と融合し、組織を動かす原動力になっていると感じました。
印象的だったのは、取材の合間に始まったエンジニアトーク。動画のメタデータの保持手法や、GPU・CPU運用の実践知。専門的な話題になると、場の熱量が一気に高まる。この技術への純粋な探究心こそが、急速に変化するAI業界での的確な判断を可能にしているのだろう。

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