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「We Overtake Tesla」完全自動運転開発を支える、AI基盤と計算資源の戦略

2026.07公開

「We Overtake Tesla」完全自動運転開発を支える、AI基盤と計算資源の戦略

お話を伺った方

会社 チューリング株式会社

お名前 山口 祐 氏(執行役員兼CTO)

会社概要

チューリング株式会社(以下、チューリング)は、2021年に設立された完全自動運転システム開発のスタートアップ。将棋AI「 Ponanza (ポナンザ)」の開発者として知られる山本一成CEOが率い、「We Overtake Tesla」をミッションに掲げ、2030年代前半の完全自動運転実現を目指す。カメラ映像から車両制御までを単一のAIが担うE2E(エンド・ツー・エンド)方式の自動運転AIを開発し、2025年11月には人間がハンドル・アクセル・ブレーキに一切介入することなく、東京都内で30分間以上自動運転の連続走行をするプロジェクト「Tokyo30」を達成。

取材の概要

2026年2月に公開した山本一成CEOへのインタビュー(https://gpucloud.gmo/news/776/)では、将棋AIから完全自動運転に至る道のりを「解けば人類を救う課題」として、技術者として、経営者としての覚悟と展望をお届けしました。
今回はその続編として、CEOが語ったビジョンを開発現場でどう実装しているのか。 チューリングが自動運転AI開発基盤に「GMO GPUクラウド」を採用してから、およそ1年。開発の最前線で、計算資源がどのような役割を担い、開発スピードにどう影響しているのかについて、執行役員兼CTOの山口祐氏にお話を伺いました。

本インタビューの内容はこちらの動画でもご覧いただけます。

執行役員兼CTO 山口 祐 氏

チューリングの目指す先と開発内容

チューリングが目指す「完全自動運転」は、既存の運転支援システムとどう違うのですか?

山口氏:既存の運転支援や限定エリアの自律走行は、交通ルールが普段通り守られている場面を前提としています。でも現実の道路はそうではない。例えば道路工事で片側交互通行になっていて、交通誘導員の方が「行け・止まれ」を手で指示してくれる。こういった、通常の交通ルールの範疇にないものを読み取って車を運転しなければなりません。だからこそを車に積まないと対応できないというのが私たちの考え方です。

開発を支えるうえで、GPUの演算性能以外に重要なものはありますか?

山口氏:動画データを大量に扱う自動運転開発では、GPUの演算性能よりも周辺環境がボトルネックになりやすいんです。GPUの性能はどんどん上がっていますが、データの転送が追いつかないと、GPUが十分に働かずに遊んでしまう。課題は2つあって、1つはGPUサーバー同士をつなぐネットワーク、もう1つがストレージです。動画をGPUに滞りなく渡すには、超高速なストレージをGPUクラスターの近くに置いて、どのGPUからも均等にアクセスできる状態にする必要があります。単にGPUの枚数があるだけでは足りない。これまでの一般的なGPUクラスター環境では、この2つが不足していました。

そもそも、なぜそれほど大量の実験と計算が必要になるのでしょうか。

山口氏:データ・GPU・人(エンジニア)という3つの要素を、同時にスケールさせているからです。
まずデータ。いまの車には周囲に7台のカメラを搭載 していて、1日6〜7時間走ると1台で数テラバイトになります。収集車は何十台もあるので、日によっては20〜40テラバイトが積み上がる。これをGPUで学習できる状態に日々加工するパイプラインも、内製で作り込んでいます。
次に人。エンジニアは約50名で、うち40%、20名ほどが機械学習・AI(人工知能)のエンジニアです。データコンペティション「Kaggle(カグル)※1」で最上位の称号「グランドマスター」を持つメンバーも5名います。優秀なエンジニアほどGPUを使いこなすので、人に合わせてGPUも増やす必要がある。この3つを回し続けることで、より速く自動運転AIを開発しようと考えています。

※1)Kaggle:世界中のデータサイエンティストやAI(人工知能)エンジニアが機械学習の腕を競うコンペティションプラットフォーム

結果として、GPU使用量はどのくらいのペースで増えているのですか?

山口氏:私たちの計算では、1年あたり2.5倍ほど増えています。倍々以上のペースで、ムーアの法則よりも速い。わかりやすい比較として、理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」のAI系の計算能力(半精度浮動小数点演算)はおおむね2エクサFLOPS(エクサフロップス)※2と言われています。いま私たちが動かしている計算リソースは、トータルで1エクサFLOPSを超えています。つまり富岳と比較して約50〜60%程度の計算量が完全自動運転の開発には必要だということです。
※2)富士通公式「スーパーコンピュータ『富岳』仕様」ページ(https://global.fujitsu/ja-jp/technology/research/fugaku/specifications)内、半精度(AI学習)理論最高値(16 bit)1.95 エクサフロップスと記述

実証中の車体内部
体後部に設置されたエッジコンピューター

GMO GPUクラウドの採用

改めて、GMO GPUクラウドを選んだ経緯を教えてください。

山口氏:私たち自身も2024年に自社でGPUクラスターを運用していたので、ストレージ、ネットワーク、可用性、ジョブスケジューラーという観点を重視していました。ただ、これらを満たす提供元は、国内はもちろん大手のハイパースケーラーを見てもほとんどなく、唯一のベンチマークが産業技術総合研究所(産総研)のABCI。「自分たちで作るしかないのか」と困っていたところ、GMO GPUクラウドに出会いました。設計思想を聞いてテストすると、4つの観点すべてが要件に合致していた。あとで、GMOインターネットもABCIのクラスターを提供する子会社「AIST Solutions」の協力を得て設計したと知り、納得しました。

海外の事業者との比較はどうでしたか?

山口氏:私たちは国内・国外にこだわらず、GPUを調達するスタンスです。国外にも、最近「ネオクラウド」と呼ばれる、GPUを専門に提供する会社がアメリカを中心にいくつかあります。そういったところとも話をしましたが、そもそもテクニカルに私たちの要望を満たせるところは多くありませんでした。GMO GPUクラウドは、グローバルなプレイヤーと比較しても、この観点で優れていた。

加えて、同じタイムゾーンで、日本語ですぐ対応いただける点も国内事業者の利点です。結果的に国産になった、というのが率直な感触です。

開発現場の変化―研究への集中が可能に

チューリングが自動運転AI開発基盤に「GMO GPUクラウド」を採用してから約1年。開発現場でどのように活用されているのかを教えてください。

山口氏:最も大きな変化は「小さな実験を堂々と並列で回せるようになった」ことです。以前の自社オンプレミスのクラスターでは、ユーザー同士が「今このGPUを使います」と宣言して、空いていたら使うという譲り合いが必要でした。GMO GPUクラウドはジョブスケジューラーが標準で搭載されているので、誰かに確認することなく投げておけばいい。エンジニアが実験の渋滞を気にせず、本来の研究に集中できるようになりました。

「 小さな実験を並列で回す」というのは、チューリング特有の開発スタイルなのでしょうか?

山口氏:決まったワークフローを1ヶ月回すような進め方ではありません。学習の過程で「あのデータも、このデータも」と必要なものが増えていくので、小さな学習の実験を小刻みに並列させながら回しています。ある意味、探索的に自動運転AI(人工知能)を開発していくスタイルです。自動運転のような複雑な問題に最初から正解はなく、多くのデータのバリエーションで試行錯誤を高速に回すことが、開発速度を決めるからです。

運用体制への信頼 ―安定した稼働・サポート

大量の計算を回し続けるうえで、安定性はどう評価していますか?

山口氏:ネットワークやジョブスケジューラーは、普段エンジニアが意識しない部分ですが、問題が起きると「なぜかうまく動かない」「異常に計算が遅い」という形で表れます。GMO GPUクラウドの場合、こうしたトラブルは一度も起きていません。本格的に使い始めたのが去年の5月末から6月ごろで、間もなく1年になりますが、その間ずっと安定して学習が回っています。

もちろんGPUは壊れることもあります。ただ、調子が悪くなると即座に対応いただけて、新しいものに交換される。このサポート体制も、良い開発体験につながっています。一般的なクラウドGPUプロバイダーだと、ヘルスチェックや故障交換に1週間かかることも珍しくありません。その点、GMOさんはスピーディーなので、「GPUがなくて困る」という事態が基本的に起きない。借りている分が実質的に減らないというのは、とてもありがたいです。

自社で構築した環境と比べて、使い勝手はいかがですか?

山口氏:正直、自分たち用にカスタマイズした自社オンプレミスにかなり近い環境が再現できています。私たちからのリクエストにも柔軟に対応いただいていて、例えばクラスターの玄関口となるログインノード。混み合うと「クラスターが重い」と感じられますが、スペックを調整いただいたことで快適に使えるようになりました。ジョブスケジューラーやミドルウェアもよく整備されていて、手触りも良い。非常に使いやすいです。

執行役員兼CTO 山口 祐 氏

今後の展望

今後の計算リソースは、どこまで必要になりますか?

山口氏:完全自動運転を2030年代前半に実現するには、あと10年ないうちに、人間の手を借りない自動運転AIをさまざまな車に搭載する必要があり、計算資源も潤沢に揃えていかなければなりません。この要求は私たちに限らず、OpenAI、Anthropic、xAI、競合のTeslaといった世界中のAI開発企業が、GPUを大量に確保し、データセンターや発電所まで建設しています。
いまやGPUがなければAI開発自体が難しい時代です。単体の性能、そろえられる数、それをどう管理・実行するか。この総合力がそのまま会社のAI開発力に直結します。私たちのようなディープテックのスタートアップにとっては、AI開発の基盤づくりが、そのままビジネスの価値につながります。

最後に、GMOインターネットとの関係性と、完全自動運転が実現した先の展望をお聞かせください。

山口氏:GPUを確実に、安定して提供いただけるプロバイダーとは、非常に良い関係になれると考えています。特にGMOインターネットには、スタートアップである私たちに出資もいただいていますし、事業面でもGPUを多く使う提携があります。この関係性は、今後さらに深めていけるといいなと思っています。 その先の展望としては、車という存在そのものが変わっていくと想像しています。いまは多くの人が、車は自分の持ち物で、自分で運転するのが当たり前だと思っている。それが、すべての車に自動運転システムが載り、誰も運転する必要がなくなると、移動手段としての車の概念が大きく変わる。例えば、今は難しい子どもひとりでの乗車も簡単にできるようになるし、あらゆる人に移動手段としての自由な選択肢が生まれます。2040年ごろには、今とまるで違う車の捉え方をしているはずです。そこを目指して、全力で開発を進めていきます。

執行役員兼CTO 山口 祐 氏

編集部のひとりごと

2月に公開した山本CEOのインタビューで印象的だったのは、「頭のいい人たちが、めちゃくちゃ難しくて面白い課題に挑戦できる環境を自分たちでつくればいい」という組織づくりの哲学でした。今回、山口CTOへの取材で、その哲学が現場でどう「実装」されているのかを見た気がします。データ・GPU・人を同時に回し続け、Kaggleグランドマスターたちが実験の渋滞を気にせず研究に没頭する。オフィスと車両の開発現場が隣り合わせという環境も印象的でした。コードを書く人と車を走らせる人が同じ屋根の下にいる。「創っているものが見える」開発現場のリアルな熱気に、思わず心が弾みました。

山本CEOが語った「良い課題」論と創業の原点は、こちらのインタビュー記事(https://gpucloud.gmo/news/776/)でぜひご覧ください。

企業情報

社名 Turing株式会社

設立 2021年8月20日

本社 東京都大田区平和島6丁目1-1 東京流通センター物流ビルA棟AE2-1-2d

事業 完全自動運転システムの開発

URL https://tur.ing/

本記事はASCII.jpに掲載された記事(2026年5月14日)と取材素材が一部共通しています。取材時に語られたチューリングのAI技術の詳細、開発チームの実態、GMOインターネットとの共創パートナーシップなど、別角度の視点で執筆しお届けしています。

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